インタビュー

日比野克彦 保存を考える

本展覧会に際し、日比野氏本人に「保存すること」についてインタビューを行いました。インタビューの全文は動画でご覧いただけます。

── 保存修復・保存科学分野に対する印象について

日比野 やっぱり、私に限らず、保存科学、保存修復というと、古いものを後世に伝えるために、壊れたところを直すとか、これ以上劣化しないように手を加えるとか、いにしえの物を直すっていうイメージが強いし、日本中、建造物から、仏像とか、工芸品とか近代的な絵画とか含めて、直すもの山ほどある。全部直そうと思ったら予算、マンパワーとんでもないことになるけれども、やっぱりそういうものを抱えていく、古いものをちゃんと直していく、っていうのが保存修復、保存科学っていうイメージの方が強い、圧倒的に強い。

けれども、これからの扱う材料が表現する媒体、メディアがここ何年か、10年くらいで世界中変わってきているので、デジタルの作品もあるし、アートプロジェクト的な事柄もあるし、芸術の中の表現の手法が多様になってきたときに、じゃそれに対しての保存修復、保存科学っていうのはこれからどうなるの、っていうのはとても興味のあることだし、これからやっていかなくちゃいけない領域だなと思いますよ。

── ご自身が考える保存したい範囲とは?

日比野 F( 作業机、椅子)※1ぐらいかな。F とG( アトリエに置かれているもの) の間は、分かれ目かな。

いわゆる作品を作るのに影響があったかどうかぐらいなんじゃない。机とかインテリアとかいうのはそれなりに自分が、色合いとかバランスっていうのは全体的な中の、割合だから。例えば、ここパッと見た時に、すぐモザイクかけて何色系かというと、その中で作品を作るとしたら、この割合の中でのこの色になる。結局の話、すごく暖色系の部屋だったら、やっぱり暖色系の色が作ったとしてもあまり来ないので、何か寒色系の色を使いたくなるかもしれないし、逆により強い赤色を使うかもしれない。

となってくると、住環境、アトリエの空間環境は影響されるから、意識していなくても影響されるから、ここに集中してたとしても影響されるから、となってくると、F のあたりまでは自分が意図的に仕組んであるもの、G というのは制作っていうものに影響はそれほど及ぼさない、っていうところにはあるのかなあと。生活用品となるから、流しの洗剤とかね。

── 第三者によって保存してほしい範囲とは?

日比野 私の場合は、今回のきっかけのように、より社会と、自分の外の世界と繋がっていくというところで、自分の距離感、自分のポジショニングというのを確認して、その中で作品を発表しているから。そうなってくると、日比野というのを、例えば後世の人が、研究対象として何か調べようとした時に、いわゆる最終形の作品だけを見て判断するっていうことで日比野の考え方とかっていうのが、どこまで深掘りできるかというと、それよりかはやっぱりその周辺の作品の周りにあったものたち、アトリエのものたち、アトリエが建てた空間、その時代のその町の人というのを調べていければ、よりその作家の考え方とか、作品のなぜそれを作り始めたとか、というところまで見ることができると思うので、そうなってくると、作者がどこまで残したいかということよりも、さっき言った、後世の人が何を残して、何を保存すべきかという判断になるだろうし。

── 保存する目的とは?

日比野 この間、茂木さんとI LOVE YOU の藝大のプロジェクト※2で話していて、脳が喜ぶのは自由なんだ、自由って何だって話していて、脳って喜びたがるわけ、喜びたがることを人間はしたがる。脳の喜びっていろんなところに自由に行けれる、想像できる、っていうことが脳の喜び。そうなってくると本を読む、映画を見る、作品を見る、今じゃない違うところに行ける、いろんな道具で今じゃない違うところに行ける、っていうのがどんどんどんどんそっちの方に脳が行きたがる。そういうものをいつでも取り出せるために、何かじゃあ保存する。今日はそこに脳をこんな手段で喜ばせてやろうっていうときに、今までだと、映画見ようかな、美術館に行く、好きな作品集見ようかなということで脳を喜ばせる。脳を喜ばせてくれる道具がガンガン、色々道具が出てきた、こんな喜び方をしたいから、今日は展覧会見に行こうかしらって時に、アートプロジェクト的な喜び方をしたいから、じゃあこれを取りに行こう、っていうのが、それが保存の手法になるのか、みたいな考え方になる。

だから、目的、保存の目的が、何っていうところも、きっと、じゃあどうやって保存するのか、誰のために、何のためにっていうこと。やっぱり人のために、人のために、人のために…地球のためにったって、地球に人が住みやすいために地球のこと考えてるわけだし。ってなってくると、人って何、心とかどうとか考えたら…。脳を喜ばせるために、ありとあらゆるいろんな時代のものを保存しておくことによって、いろんな喜び方が脳ができることを増やしていく。

註1) 展覧会概要ページ参照

註2)2020年7⽉26⽇(⽇)、東京藝術⼤学が実施する「I LOVE YOU」プロジェクト2020の⼀環として、様々な分野の著名⼈をゲストに、澤和樹学⻑、⽇⽐野⽒らが芸術にまつわるトークをオンライン⽣配信した。
https://iloveyou.geidai.ac.jp/